対話型電子白板利用授業における
有効活用モデルの検討
Web公開用調査研究報告書
平成14年度の情報技術(IT)の活用が盛り込まれた新学習指導要領の施行,学校現場でのパソコン,プロジェクタ等のIT環境の整備等によりIT活用型教育の充実が継続的に図られており,今後ITに対する学校現場からのニーズが更に高まるとともに,学校現場におけるITに関する課題も明確になっていくことが容易に予想される。したがって,学校等教育機関での新たなIT活用の有効性を検証するとともに,学校現場のニーズに即したIT機器等の開発を推進する必要がある。
本プロジェクトでは,平成13年度Eスクエア・プロジェクト先進企画「対話型電子白板を活用した教育ソフトウェア作成方法論の検討」にて抽出されたツール,コンテンツ等の成果を対象に,その成果を利用した実践授業を通してより教育現場の実情に即したツール,コンテンツ等の機能追加,改善の実施あるいは授業における有効的な活用方法の抽出を実施し公開することで,対象となるツール,コンテンツ等の成果を広く教育界に普及させることを目的に実施する。
電子ペンなどの直接指示ディバイスを組み合わせた対話型電子白板は,従来の一斉授業に欠かせない黒板とチョークによる教育の特徴と利点に,情報処理の利点を融合できる可能性がある。かかる観点からの利用効果実証については,平成13年度Eスクエアプロジェクト参加を通じて成果報告を発表したとおりであるが,今後さらに,広く普及を推し進めるために新たないくつかの改善を行うことを目的とするものである。視線集中型で教師が主役となる電子白板活用の教育ソフトウェアを作成するために,教師と情報技術者が連携し,試作や評価を繰り返して,教師が短時間でオリジナル教育ソフトを作成出来るソフトを開発し,有効的な活用モデルの抽出及び活用マニュアルの作成を行う。
以下の要件を満たす内容で調査研究を行うものとする。
(a) 対話型電子白板の利用を前提とした教育ソフトウェアの教育的有効性について検証し,具体例を検討し,具体例を示す。
(b) 対話型電子白板の利用を前提とした教育ソフトウェアの有効的な活用方法について検討し,具体例を提示する。
一斉授業の情報化手段として対話型電子白板を前提に,教育ソフトウェアを作成して公開するとともに,その有効活用モデルを提案する。具体的には,次の教育ソフトウェアを例として作成する。
・
実践授業としては,稲城市立稲城第三中学校の協力により実践授業6時間以上を行う。授業としては,中学校の理科の単元に沿った授業を行う予定である。電子白板の使用場所としては,パソコン室ではなく一般の教室とし,IT教材ではなく,黒板と同じレベルで活用されて行く方向とする。また,出来るだけ教師に負担にならない形とする。実践授業の前に単元の授業計画に沿ったコンテンツ作成の打ち合わせを行いソフトウェアでなく教師を主体にしたコンテンツの作成を行う。また,実践授業と並行してソフトウェアの改善要求に沿ったソフトウェアの改善を行う。
表 1単元との対応表に,各ソフトウェアと単元との対応関係を示す。
表 1単元との対応表
ソフトウェア名 |
対応学年と科目 |
中学 理科「酸化と還元」コンテンツ (金属の酸化,有機物の酸化,還元,化学変化とエネルギー) |
3年生,理科 「物質と化学反応の利用」 |
映像ビンゴソフトウェア |
3年生,理科 「物質と化学反応の利用」 |
白紙コンテンツ (オリジナル教材ソフト作成用) |
全学年,全科目 |
・ハードウェア,ソフトウェア,ネットワークを含む利用環境
対話型電子白板の利用環境は,対話型電子白板とプロジェクタ,パソコンを最小構成として,さらにインターネット,スキャナなどを複合した利用環境で使用される。図 1. 利用環境の概観図を示す。パソコンの画面がプロジェクタに投影され表示されペンやイレーサを対話型電子白板上で動かすことで,従来の黒板の様に使用される。電子白板上でのペンやイレーサの移動が通信ケーブルを介してパソコンへ伝えられドライバソフトウェアによりマウスの移動やマウスボタンの操作に変換される。パソコン側は、マウス操作として認識して動作するため、マウスやタブレットを使って同じ操作を行うことも可能である。また、ネットワークやスキャナから写真や資料を白板上に取り込むことにより,写真を電子白板上に表示し,拡大や移動を電子白板上での操作によって可能する。授業中に電子白板上に書いた内容を保存し次回の授業で続きから行うことや,HTML形式で保存しサーバ上にファイルを複写することにより,その日の授業内容などをインターネット上で閲覧可能となる。
図 1. 利用環境の概観図
対話型電子白板の活用におけるインターネットの利用は,インターネット上のデータを取り込む形での利用方法と,白板に書いた内容をインターネット上で閲覧可能とするインターネットへの配信としての両方の利用方法がある。データの取り込みとしては,インターネットから写真資料やサウンド等を電子白板に取り入れコンテンツを作成する。インターネットへの配信としての利用は,作成したコンテンツの上に授業で白板上に書いた内容を含めた形でJavaアプレットを使用し操作可能な形のコンテンツとしてHTML形式で閲覧可能とすることで,授業の復習や授業に参加できなかった生徒,他の先生方,保護者の方などが自宅やコンピュータ教室等で閲覧することを可能にする。生徒が白板上にペンで記入した内容や発表した内容についても閲覧可能とすることができるため、生徒の発表内容の配信にも利用可能である。保存ボタンを押してファイル種類にHTMLファイルを選択するだけで直接保存される。LAN接続されていない環境で使用する場合には,一度記憶媒体に保存してからサーバ上に持って行く形で同様の事が可能である。図 2にインターネット上での閲覧の構成図を示す。閲覧時にパスワードを設定して学外からのアクセス制限の必要性も考えられるが,それらは,通常のホームページ閲覧と同様にサーバ側の設定で可能である。HTMLファイルの保存機能は,白板ソフトウェアの基本機能の一部であり、作成したコンテンツ全てにおいて使用する事が可能である。
図 2. インターネット上での閲覧の構成図
本プロジェクトで開発する教育ソフトウェアにおいては,次の二つの指標によって評価する。
l 先生は,従来の授業と比較して教育効果が上がったかどうか。
l 先生から見た,白板の授業や今回開発したソフトの望ましい利用方法をアンケートにて行う。
今回のコンテンツ作成の基本となるツールです。このツールに対して画像やテキスト、サウンドなどの部品をドラッグして取り入れて、コンテンツを作成しています。取り込んだ部品は任意の位置に移動や変形・回転が可能です。部品をクリックした時の動作の指定やアニメーションの設定などもツール上で行えます。ページを追加して複数のページを持たせることも可能です。作成したコンテンツは、実行形式だけでなく、Javaアプレットを使ったHTML形式でも保存できますので、インターネット上にペンや消しゴムでの描画や、矢印での部品移動等のインタラクティブなコンテンツとして配信することが出来ます。操作方法については、別紙「白板ソフトウェア」を参照下さい。
図 3 白板ソフトウェア
本プログラムは,電子白板を使って中学校の理科の「物質と化学反応の利用」授業で活用する「酸化と還元」の授業に沿ったコンテンツです。図 4のように、電子白板上で先生が操作しながら,説明や問題を書くことが出来ます。また、生徒が前に出て問題を解くことも出来ます。このコンテンツを使った授業については、別紙「作成したコンテンツ」を参照下さい。
図 4.概要図
本プログラムの推奨動作環境は表 2の通りです。
表 2動作環境
OS |
Windows Xp |
CPU |
Pentium 1GHz以上相当 |
メモリ |
256MB以上 |
その他 |
プロジェクタ、電子白板またはタブレット等 |
コンテンツ作成において、IPA「教育用画像素材集サイト」 http://www2.edu.ipa.go.jp/gz/ の画像素材および動画素材を使用しました。また、実際の授業の中では、他の画像もスキャナで取り込み使用していましたが、著作権の問題を考慮し現状のコンテンツでは置き換えや削除を行っています。
・全体の体制
株式会社マイクロブレイン 代表取締役 坂本 勝
公立中学校・・・稲城市立稲城第三中学校 教師 中林典子(1名)
民間企業・・・・株式会社マイクロブレイン 坂本勝 坂本保代(2名)
・実地作業の体制
設計,開発,改善 ・・・・・・・株式会社マイクロブレイン
文書作成作業・・・・・・・・稲城市立稲城第三中学校及び株式会社マイクロブレイン
実証実験・・・・・・・・・・稲城市立稲城第三中学校
・評価の体制
評価・・・・・・・・・・・・稲城市立稲城第三中学校での実践授業により行った。
・体制図
図 5.に支援者,協力者の役割と用件を示す。
図 5体制図
表 3に支援者,協力者の役割と用件を示す。
表 3支援者,協力者の役割と用件
所属・役職 |
氏名 |
役割 |
(株)マイクロブレイン・代表取締役 |
坂本勝 |
全体のまとめ 教材システムツール開発 |
(株)マイクロブレイン・常務取締役 |
坂本保代 |
教材ソフト開発 |
稲城市立稲城第三中学校・教諭 |
中林典子 |
授業設計とその指導・実証実験 学習モデルの開発と評価 |
ホームページ上( http://www.vlab.jp/e2a )で公開し普及に努める。ホームページ上では,プロジェクトの報告書だけでなく,作成したソフトウェアをダウンロードして使用可能とする。また、音声を含んだ動くマニュアル等も公開し、普及を促進する。
対話型電子白板を使用した授業と「還元」の実験の授業を合わせ,12時間の実践授業を行った。表 4に実践授業の一覧を示す。また,予定外の授業にも電子白板を使用した授業が先生によって積極的に予定されている。
表 4実践授業一覧
実施日時 |
科目 |
授業内容 |
クラス |
H16. 1. 9 2時間目 |
3年理科 |
「物質と化学反応の利用」 理科実験ソフトウェア上で動作する4コンテンツ(金属の酸化,有機物の酸化,還元,化学変化とエネルギー)と 映像ビンゴソフトウェア(金属の酸化,有機物の酸化,還元,化学変化とエネルギー,)使用 12時間の内3時間は実際の実験「還元」「化学かいろ」「化学電池」を理科室で行った |
3-B |
H16.1.13 1時間目 |
3年理科 |
3-B |
|
H16.1.14 2時間目 4時間目 |
3年理科 |
3-A 3-C |
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H16.1.15 2時間目 3時間目 |
3年理科 |
3-A 3-C |
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H16.1.16 2時間目 |
3年理科 |
3-B |
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H16.1.19 2時間目 5時間目 |
3年理科 |
3-C 3-A |
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H16.1.20 1時間目 |
3年理科 |
3-B |
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H16.1.21 2時間目 4時間目 |
3年理科 |
3-A 3-C |
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H16.2.12〜 計3時間 |
2年理科 |
「白紙ソフトウェア」を使って,教師自身が教材ソフトを作成し,「気象」の授業予定 |
2-A 2-B 2-C |
3年生理科「物質と化学反応の利用」の実践授業を行った。この実践授業は,電子白板を視聴覚用の教材や一部として捕らえることに留まらず,教師が主体となり,電子白板を操作(図 6)しながら,授業を進める方法での一歩先に進んだ革新的なアプローチとして12時間の時限にわたって行われた。単元の内容を教科書に準拠して,ソフト図 7を作成し,この単元では,実験結果と原子・分子の動きが一致してイメージできることをねらいとした。その理由は,理科の勉強というと「実験結果を暗記してテストにそなえ,テストが終われば全て忘れてしまう」ということが起こりがちな現状について,疑問を持っていたからである。そこで,実験結果と原子の動きや結びつきを目に見えるようにして説明すれば,無理なく理解でき理解の度合いも深まるのではないかと考えた。それには電子白板の下記□の中に書いてある機能を使うことで,実現できるのではないかと考え,実施した。
特長
◇ 実験映像の上に原子モデルを貼り付けることにより,実験結果をより深く理解できる
◇ 電子白板上で問題演習をやることにより,知識が定着する(図 8)
◇ 化学反応式に対応させたモデル図を間違えても,何度もやり直せる(図 8)
◇ 黒板に字を書かなくてすむので,時間内に効率よく説明ができる(図 9)
機能:○銀はがし ○磁石(結合)○音声、動画、画像、文字挿入 ○他ソフトの実行 ○HTML ○保存
図 6 操作しながら,授業を進める活用方法
図 7 金属・有機物の酸化,還元の授業
図 8 問題演習(化学反応式に対応させたモデル図)
図 9 銀はがしで,字を書く時間を節約
3年生理科「酸化と還元」の単元で,予習復習の教具としてのソフトウェアを作成した。理科を学習する上で,覚えなければならない言葉は,いろいろあるが,その多くは日常生活ではあまり使わずなじみがない。そこで,科学用語に多くふれ,慣れてもらうために授業の初めに「理科重要用語ビンゴ」を行い,ゲームをしながら言葉や単位を覚える機会を作った。特に,映像ビンゴのよいところは,言葉だけで説明するよりも「映像で見た方がずっと理解しやすい現象」をその映像を繰り返し見ることで,学習効果が上がる点にある。そこに出てきた映像は,さらに授業の中で,きちんと説明するので,初めはよくわからない映像も授業が進むにつれて,わかるようになっていく。
特長
◇ 繰り返しによる,学習効果の向上が計れる
◇ 短時間で学習を進めることができる(図 10)
◇ シャッフル機能で,ランダムに問題が表示できる
図 10 映像ビンゴ動画活用時の授業
授業で使用するコンテンツの作成については,実際に授業を行う教師がもっとも近い場所にいると思われます。しかしながら,コンテンツ作成の時間が取れないのが実情です。白紙ソフトウェアは,少ない準備時間で授業に活用できるコンテンツを教師自身が作成出来ることを特長とし,また,全学年全教科で共通に使える教材作成ソフトでもある。
特長
◇ 教科書や資料集の迫力ある映像を簡単に提示できる
◇ 映像の上に説明用の文や矢印を簡単に貼り付けられる
ここでは,例として2年生の理科「気象」を,教師が教科書や資料集を利用し,授業用のソフトを作成した画像を示す。(図 11.図 12)
桜が南から北上して咲いていく様子を表現し、さくら前線をわかりやすく説明
図 11 桜のイラストをドラックしてさくら前線を説明1
図 12 素材集やスキャナ.アニメgifを利用し,気象のソフトを作成
実践授業後に3年生の生徒に対してアンケートとテストを実施した。図 13〜図 144
わかりやすかったですか? 楽しかったですか?
また白板の授業をうけたいですか?
図 13 アンケート結果
図 14 酸化と還元のテスト正解率
電子白板授業では,集中して説明を聞き,みてくれるのが良い点であった。ただし,長く説明をすると飽きるので,15〜25分ぐらい短い時間に見せるととても効果があるようである。白板を使うと,時間が有効に使えるので,その分ドリルを授業中にやる事ができた。授業実践後のアンケートとテストの正解率も教師の想像以上の手ごたえがあり,今後の白板授業の励みになったことが,今回の実践授業で得られた貴重な経験であった。また,実践授業で,日頃授業に無関心な生徒も,白板授業を気にしてチラチラと見ていた姿を喜んで伝えてくださったことも非常に印象的である。生徒たちにとって効果的な授業は,単なる画像中心のプレゼンテーション的なソフトを作動することではなく,教師が主体的に電子白板を操作しながらひとつひとつの具体的な動きを表現する活用方法で,授業に取り組むことができたことであった。
稲城第三中学校では3学年,2学年の理科に専科教師を配置しており,本プロジェクトの担当として加わられた中林教師がその任に当たっておられた。また,中林教師は仮説実験授業研究会の会員であり,地元地域でも公共施設等で,仮説実験授業の講師をされた経緯があり,常日頃から,理科の授業をわかりやすくするために,事前に模型や,画用紙を利用した教育教材を手作りで作られている教師である。今回のプロジェクトで,「10年使えるソフトを自分で作ることが出来る」と非常に喜ばれた事が,最大の成果ではないかと感じた。また,選択理科などで,生徒が自分達の問題を作れるのではないかとのことで,新たな活用方法も自然に増えると感じた。今後,本プロジェクトが終了した後も電子白板を利用した授業を続けたいと述べられたことが普及に向けての第一歩であると感じた。
電子白板は,子ども達の視線を集中させることができ,理科授業後のアンケートでは,「わかりやすかった」と答えた生徒が79%,授業後のテストでは,76%の正解率が出ており,想像以上の高い学習効果であった。予習,復習として,映像ビンゴソフトを利用することで,本来の授業の説明も取り掛かりやすく,教師が主体となり,電子白板を操作しながら,授業を進める方法を採用した結果,生徒達の視線を集中させ,理解力の向上につながり,効果的な活用方法が出来たと言える。前時の板書記録などから学習を振り返ることも効果的だが,復習,予習用ソフトを繰り返した点も電子白板の特性を活かした有効な活用であった。電子ペンドライバの位置調整が必要なことや,電子白板の移動をする場合の機材の運搬,高さ調節など,事前の準備を必要とする時間が掛かるが,教師に負担の掛らない固定式があれば,さらに幅広く利用されると考える。
本研究では,教師自身が,授業をしながら,動画,文字,音声,写真,絵を入れることで教育ソフトが容易に作成できる,白紙ソフトウェアも開発した。これは,教師の授業を自由にカスタマイズすることができ,教員のパソコンスキルに関わらず簡単に操作できるのが特長である。ただ,取り入れる素材集の著作権関係等,授業以外の公開が難しくなるため,インターネット上での公開はオリジナル素材か著作権が許可されている素材の公開に絞られる問題が,教師間の共有ソフト利用をはばむ大きな壁になると思われる。ネット利用以外の通常の授業ではスキャナで画像を取り込むのが一般的であるが,取り込み時間に必要な時間が掛かるので,素材集があれば,さらに作成時間が短縮し,使いやすいソフトの特徴を活かして子供たちにも活用の場が広がると思われる。学習のまとめを,白板を使って映像としてまとめることや選択理科の授業で,学習のまとめの活用方法も教師からやってみたいこととしてアンケートにあった。電子白板の普及を考える上で,電子白板ソフトのテンプレート集の作成や活用方法の研究は,今後益々進めていく必要があると考える。